DICHU
チャリンコの速度も安定し始めた頃に轢きかけた毛虫が昨日食った何かから発される香りに似た香水をふる人の隣でいびきかく男。
そのいびきが聞こえない程度離れた窓に水滴をもたらした温度を不快がる犬が皺顔を誰にも見せないまま、かつての飼い主に思いを馳せることもないが形見である赤い首輪を買った店のご主人の息子は今日もチャリンコを漕いでる。
そんなチャリンコを漕いでる
そんなチャリンコを
それとも……?
廻してるつもりが漕がされてる
誰しも不幸の轍を咬むけど
重心の位置に狙いがつけば
漕げるかなぁ
5分前に通り過ぎたアパートの一室では薬に血染められた弱さが喘いでいて、その喘ぎに感化された様に向かいのマンションでは誰かが殺されてるかもしれない。
なんて妄想に身やつすこともなくチャリンコを漕いでる。
そんなチャリンコを漕いでる
そんなチャリンコを
それとも……
廻してるつもりが漕がされてる
誰しも不幸の轍を咬むけど
重心の位置に狙いがつこうが……
咬みつける不幸に恵まれたはずの
人間が不意に見せる気色が
やけに嬉しそうに見えたから
笑えた
漕げるかなぁ
笑わせた
笑ったら
笑われた
笑わせた
そんなチャリンコを漕いでる
そんなチャリンコで漕いでく
そんなチャリンコに漕がされる
漕ぎつ漕がされつ生きてく
そうやって生きてる
2010.1.31作