短い髪のマーメイド


 

僕は雇われて2年目 城の若い衛兵
毎晩 空に舞うシャボン玉を見つめていた
姫君のくちびるを静かに離れ……
見守って 手招いて 見破って

君は囚われて百年 シャボン玉のマーメイド
月の魔女の魔法でマーブルブルーの海を游泳
夜の波を僕の方へ泳いでいく
恋して 沈んで 壊れて

来る夜も来る夜も
手を差しのべる衛兵に
「シャボン玉中毒さ」と酔っぱらいのような噂して
誰も知らないシャボン玉のマーメイド
夢を見ている……

単純明快なマーメイドの夢は
「人間に成って 髪を長くしたいの」
シャボン玉の世界じゃ長く生きていられない
だから短い髪のままマーメイド


どうかこの愛を確かめ合いたいんだって
次の晩餐会までに魔法が解けるように
僕たちの願いは甘く溶け合って
祈って 祈って 祈って……
夜を越えていく


来る夜も来る夜も
頭を下げる衛兵に 月の魔女はとうとう折れ
ついに晩餐会の夜に
誰も知らないシャボン玉のマーメイド
魔法が解ける……

晩餐会の招待を受けて
ばっちり粧しこんでいる貴婦人の前に
パッとシャボン玉から現れて綺麗さ
君は短い髪のマーメイド

ステップも軽やか 手だってつなぐさ
晩餐会が君に見惚れているよ
くらっとシャンパンの香りが弾けて
僕はもう溶けてしまいそうさ


ハッピーエンドも眠りについた頃
ふたつのシャボン玉が夜へ飛んでいった
にやりと月明かりが夜を揺らして
浮かれて 甘えて 寄り添って
三日月の指先の光
キスして 弾けて 消えて




2015年7月6日作