白のドレス
日の目を浴びない小説『白のドレス』。主人公は恰好を装う彼。数回の君との論議で、これらを嫌いになった。白のドレスの彼女のせいで、君は雪のような服を重ね始めた。小説の結末は、哀切で満ちているのに。
『六畳もない畳の部屋を、どれだけ探しても彼女がいない。彼は走った、昼下がりの駅へと。 見つけた窓辺で風を受けている人。恰好つけることも彼は忘れて、声高らかに彼女を想い「好きだ!」と叫んだ。振り向いた白のドレスの人、十四時告げる汽笛の中で、微笑んだ。』
彼と同じように恰好つけの僕は、最近生まれた君との距離に疎い振りをして、妙に冷めた言葉を吐いた。昨日の日付に赤でバツをつける君が、この部屋にいないのはなぜ?唐突に現れた置手紙が、答えを示した。
何も言わずに出てゆくことを、どうか赦してくれませんか……
僕も走った。きっと君の待つ駅へと。
目に迫る人混、その奥に覗く風に吹かれて揺れる白い服。 どんな声も届きそうにない昼前の駅。あの窓まで、車両一両くらい。まだ間に合う。でも前に行けない。恰好つけることも忘れてしまおう。叫ぶよ、今から。声、高らかに。そう想うと同時に響く、発車の合図。 お願いだ、行かないでくれないか。
「……好きだ」
しまっておいた言葉、君のために。
少しずつ、速度を上げ始める電車。距離が「声は届かない」と云った。小説のように振り向くことなく、君は消えた。形振りかまわず君を想い、泣いた。
青空まで赤く染め上げる、君との別れ。暫くはここで、こうしていよう。遥かな君を想い、目を閉じて。
止む雨涙。十四時の駅。僕が彼に重なって見えたと感じたとき、白のドレスもまたその彼も、好きになれたような気がした。想いが、遠くへ馳せて行く、レールの上を。
2006.4.17作