春の雨

 

 

春の日に
あの人を 好きになった

「雨が好き」
あの人は
よく そう漏らした

町を濡らす
音と その匂いが

好きだってさ

僕と同じ気分なんだね
雨の日は
時計が 休みたがりでさ

窓を伝う 滴を 拭う指が
きれいだった

淡い緑と 透いた銀の
雨中に滲む景色が
君に注ぐなら……

嬉しいな

舌で見せた 嫌いは
嘘だってさ


水たまり
ぬかるみを跳び越えても

また 水たまり
「洗えないよ」
ジーンズの裾

尖らせた口から
溢れた言葉は

「好き」だってさ

昨夜の寒さに
色づきの遠さを 予感しても
見える綻びが
ひとつ あった

借りた映画も観られ
嬉しいね

 


春の音

雨の匂い

見える想い

春の雨

 

 

                                2009.9.2作

 

 

 

 

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