音の文壇
ウミガメの卵
明日 地球が滅ぶならどうしたいか？って
先週の雑誌にあったが
どうやら老いぼれた医師の宣告の限りでは
数日でそれを解かねばならんらしい
半年を過ぎたどっかの留学生
帰国の日も迫り
ましな日本語のひとつもろくに持たずに
同郷の友人らと今夜もクラブへ
望まんくても 世界は変わり
望みあれど いずれ……
偉業に歓喜した去年の暮れ
数億の年俸を抱いたが
あらどした？
痛む足が今季を棒に振りそうかい？
残念がり 批判加えたがり
海へ帰っていく雌のウミガメ
いつかの母を夢見るの？
涙の正体をエライヒトが暴いてやったぞ
まぁ……別に知りたかないけど
望まんくても 何かが増えて
望みあれど いずれ……
何もかも滅ぶのに
茶柱だって今朝立ったのに
殺されている
懲らしめている
無意味に
有名な樹海のかつての自殺志願者
倒木に目を奪われ
コケにされた日々を睨み続けた眼は
果てる意味をさも悟ったかのように
絵描きは海を越えて遠い砂漠へ
数多の名誉を捨てに
踏み込んだ足に咬みついたのは
いつかの己とよく似た熱い砂
望まんくても 多くを忘れ
望みあれど いずれ……
何もかも終わるのに
メールだって送ったのに
皆無視か
ハッ…… そりゃそうだよな
だけど
何もかも滅ぶように
仕組まれたこの世界の
朝焼を あの美しさを知った
そばかすの少女 日傘をたいそう大事そうに
握る柄に託されたのは？
病に臥した彼を見舞った後で
明日を信じる風でもない
2011.6.4作