音の文壇
エース
かたい指先にかかった
真紅の縫い目の感触が
離れるが早いか 響き渡るのは
バットかミットか？
ゲームの始まりさ
プレイボールの合図は
首筋の汗で忘れた
豪快なスイングで敵様が怯めば
そいつは布石さ
絞るは外ストレート
追いかけ合っては躱し合っていく
攻めども守れどもゲームは続いていく
マウンドへ上がれば
支配権を握って
求められたサインにこれだと決めこんで
相手を睨めば
見くびるなよエースナンバー
次々と仕留めた
敗者のゆがむ顔が
回を進める毎に俺を脅かしていく
集中せねばならんと
ピンと糸を張りつめる
さっきまでのあいつとは別人の顔だ
気迫で満ちた面してやがる
いいさ 俺の手札はさながらポーカーズストレート
伸るか反るか白球駆け引き
勝負はここだ
飛ぶわ どこまでも白球は
思いを打ち砕いて
あの空の深さに紛れるかのように
風にも意思にも操られもしないで
痛そうに つらそうに 消えた
追いかけ合っては躱し合っていく
積み重なる0に1を刻み込んで
果てるのか果たすのか 背中を預け
捕らえども逃げども
エースは続く
直球の思いはストライクゾーン目がけて唸りをあげて
蹴り上げた土の舞う間の攻防 時も息も止めて
響き渡るのはバットかミットの音か
笑って 勝ち誇って
でも飛ぶわ どこまでも白球は
俺を打ち砕いて
あの空の広さに迷ったかのように
ありったけの思いをこめて投げたはずなのに
痛そうに つらそうに 消えた
届かない思いが 消えた
白いままで 消えた
2011.7.25作