陽溜の渦

 

 

静かな夕陽が 道往く人と 白樫並木を 温め息づく
ベッドに座る君を机から覗く
淹れたコーヒーの湯気になる香り

“コチラ 暇局デス 応答 御無沙汰 シテマス”
陽の馴染む街路樹の窓に

君は見惚れ 何も言わないね
拗ねたふりして
冷えた 机 頭 預け 目をつむった

散らばる木洩れ陽を 君は指で踊らせ
視線を撫ぜるように 道往く人々へ流していく
淋しくて 君の横顔

眠るふりして見ていた


君の綺麗な耳に不自然の
小さなピアスが窓の隅にあり
知らぬ誰かの君を呼ぶ声と 木洩れ陽が絡まり
影を落としてきた

「窓に置いてあるピアスは誰かのなの?」
だなんて訊けるはずもなくて

眠るふりをこのまま続けよう
ちらつく不安が
廻り 濁り 澱み 顔に出ないように

飲みかけのコーヒーも 湯気を上せることをやめ
溶け切れずに 角砂糖もまた 小さな澱と化した
照れくさそうに広い手を寄せる

君の影は 眠りの中


散らばる木洩れ陽の 息を潜めた並木で
縫いつけるように人々を運んでいく秋の風

   

 

  散らばる木漏れ陽の中で煌めくピアスは

  今日も私の左耳で小さく揺れています

  照れくさそうな君の横顔

  あの日の陽溜の中……

 

 

2014.2.20作

 

 

 

 

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