始発まで

 

 

始発を待つ 肩が並ぶ 君と二人 最後の日は
濃い灰の雲 蠢く 寒空の下

上京記念の腕時計 進む針
別れの時を音で刻んで もう数分だと告げた

料理好きで でも うまくなくて
君が今 仰ぐ夢は
遠い町へと繋がっていることを知ったけど
僕は 止めない

 

君と二人 描きかけのスケッチ
破くにはまだ早い
連絡なんて気楽な言葉に
二人は 気付かないまま


一人分の小銭出して 君の好きなミルクティーを
渇いただろう 温まれば
とかじゃなくて……

手袋越しに両手を丸め 温める君を
いいな と初めて感じたのは
三年前の冬の日

雪の無い町
いくつかの冬を君と待った 白い雪が
君の肩へと 解けて浸みていく
きっと僕の肩でも また……


不意に 痛く聞こえてくる 踏切の音
手袋越しに手に息を吐く君は……


君と二人 描きかけのスケッチ
破くにはまだ早い
多くないけど 積もるほどじゃないけど
この町に 雪が降るのに

もう会えない 雪も見えない
二人 今 仰ぎ涙
あげた時計の仕掛を壊してでも
本当は……
君を 止めたい


そんな風に独りでいた日を 思い
今 描く絵は
春の朝日を 喚びに顔を見せた 雪解けの芽の息吹

 

 

                                2009.2.2作

 

 

 

 

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